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福岡地方裁判所 昭和58年(モ)1256号 決定

北九州市小倉北区舟町七一番地七六

原告(申立人)

有限会社福岡城

右代表者代表取締役

古三庄良江

右訴訟代理人弁護士

鈴木一郎

市小倉北区萩崎町一丁目一〇番地

被告(相手方)

小倉税務署長

西山勇司

右当事者間の昭和五八年(行ウ)第一号法人税更正処分等取消請求事件について、原告から移送の申立があったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を却下する。

事実及び理由

一  原告は、「本件を東京地方裁判所に移送する」旨申し立てた。申立の理由は別紙(一)のとおりであり、右申立に対する被告の意見は別紙(三)のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、別紙(四)目録記載の当事者間において、東京地方裁判所昭和五七年(行ウ)第一九三号法人税・所得税更正処分等取消請求事件(以下「東京地裁事件」という。)が係属していることが認められる。

2  そこで、本件と東京地裁事件が、行政事件訴訟法上の関連請求に該当するか否かにつき検討する。

(一)  一件記録によれば、次の各事実が認められる。

(1) 原告と前項の事件の原告会社らとは、いずれも山村鉄夫を実質上の経営者とする同一企業体(以下「山村関連会社」という。)であること。

(2) 被告が原告に対して昭和五五年七月二八日付でなした法人税更正処分等(以下、本件処分という。)に対する審査請求事件と、荒川税務署長が山村関連会社である大栄観光株式会社に対して同月二九日付及び同月三〇日付でなした法人税更正処分等に対する審査請求事件とを対比すると、各事件の争点には、各申請人の入浴料収入をタオルセットの使用数量等から認定した各原処分庁の推計方法の合理性、各申請人における福利厚生費、顧問料・紹介料及び機密費・交際費等の簿外支出の有無など共通の項目があること。

(3) 前記二つの審査請求事件の裁決書上は、山村関連会社である原告と大栄観光株式会社とは、売上げ除外等の帳簿操作の方法が類似し、従業員として同一人物が携っており、簿外費の支出先とされている者が同一であるなど、その経営実態に共通性がみられること。

右の各事実によると、本件と東京地裁事件とは、主要な争点項目を共通にすると予想され、本件において取調の予想される証拠方法が東京地裁事件においても取り調べられる可能性もあり、又証拠評価について同一の観点が妥当すべき場合もあると考えられる。

(二)  しかしながら、一件記録によると、山村関連会社が本店及び店舗所在地を異にする別個の法人であることや、本件処分を含む山村関連会社に対する課税処分が、課税期間(一部重なる部分はある)、課税標準をそれぞれ異にすることが認められる上、これを考慮すれば、本件と東京地裁事件とは、争点項目及び証拠方法に前記のような共通性がみられるとはいえ、争点や証拠の具体的内容は各課税処分ごとに異なると考えられるから、両者を併合しても、一方についての解決が地方の解決に直接役立つものともいえず、また併合した場合には、併合しない場合に比して、かえって審理が複雑化かつ長期化することが予想される。

以上によると、右両事件は行政事件訴訟法一三条六号の関連請求にあたるものとはいえないと解するのが相当である。

(三)  また、両事件間に、同一ないし五号のいずれかの関連請求の関係があると認めるべき事情もないことは、一件記録により明らかである。

3  以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告の申立は理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 麻上正信 裁判官 水上敏 裁判官 河野泰義)

(別紙(一))

申立の理由

一 原告は、小倉税務署長を被告として本件を行政事件訴訟法第一一条一項に基づき提起したが、本件は東京地方裁判所昭和五七年(行ウ)第一九三号法人税・所得税更正処分等取消請求事件(民事第二部係属)と関連する請求であるので、これと併合審理するため同法一三条六号の規定により移送されたい。

二1 本件は、訴外山村鉄夫が実質的に経営していた別紙(二)目録の特殊浴場関連九社に対する法人税更正決定等のうち原告に対するものの取消を求めるものであるところ、

2 これらは訴外山村鉄夫支配下のいわば名目的な法人であり、その経営方法は勿論売上除外の方法・裏給与その他の簿外経費の支給並びに右関連九社全体の株式売買損失などすべての争点にわたって共通しており、また反面各原処分庁による売上所得の推計の方法、簿外経費認定の有無及びその理由も同一であって、その証拠関係も共通している。

3 そのため、本件を含む関連九社による更正決定等の取消を求める審査請求も、いずれも東京国税不服審判所において一括審査するところとなり、記録も原処分庁から全て東京国税局に集中されている次第である。

三 以上のとおりであるので、よろしく申立の趣旨のとおり移送されたい。

(別紙(二))

目録

原告名 原処分庁

西日本起業有限会社 下谷税務署長

大栄観光株式会社 荒川税務署長

楠本観光有限会社 浅草税務署長

光陽商事有限会社 浅草税務署長

瀬戸観光有限会社 浅草税務署長

横浜起業有限会社 横浜中税務署長

有限会社一福商事 横浜中税務署長

有限会社福岡城 小倉税務署長

松山観光有限会社 松山税務署長

(別紙(三))

一 本件は、原告に対し課税処分をした小倉税務署長を被告とする取消訴訟であって、右被告の所在地を管轄する福岡地方裁判所に提起された適法な訴えである(行訴法一一条一項、一二条一項)ところ、原告は、行訴法一三条の規定に基づき、本件を東京地方裁判所に移送するよう求めている。

二 ところで、右法案の「移送」の規定は、取消訴訟と関連請求に係る訴えとが各別に裁判所に係属する場合に、右関連請求を右取消訴訟の係属する裁判所において併合審理することを目的として設けられたものであるが、原告は同法案の規定を根拠として揚げ、本件を東京地裁民事第二部に係属する昭和五七年(行ウ)第一九三号事件(以下「東京地裁事件」という。)に併合のうえ審理されるよう求めて、本件の同地裁への移送を申立ているのである。

三 しかしながら、本件訴訟を東京地裁に移送し、更に東京地裁事件に併合するには、本件の請求が東京地裁事件に係る処分との関係で同法一三条各号に掲げる「関連請求」に該当するものであることを必要とする(同法一三条、一七条一項)ところ、本件の請求は同条各号のいずれにも該当せず、したがって、これが「関連請求」であるということは到底できないものである。

これにつき原告は同法一三条六号の規定に該当する旨述べているけれども、一般に同種の複数の課税処分に共通する違法事由が存したとしても、このような各課税処分の間には関連請求の関係はなく、所得税又は法人税の課税処分の取消請求のごときは、たとえ同一の行政目的をもって同時に多人数に対してなされたものであっても、同条号の規定に該当する関連請求とは認められないのであり、勿論、単に取消訴訟の原告ないし原告の訴訟代理人にとって便宜であるか否かという見地だけから判断すべきものでもないのである。

四 しかして、原告が本件とともに併合審理を求める他の各訴訟は、訴外山村鉄夫及びその関連九法人(以下「山村ら」という。)が、課税処分をなした浅草税務署長ら六名の税務署長を被告として提起した、被処分者、課税期間、課税標準等をそれぞれ異にする取消訴訟なのである。そして、右山村が右関連九法人を実質的に支配・統括しており、右九法人がいずれも特殊浴場業(いわゆるトルコ風呂業)を営んでいるとしても、山村らはそれぞれ独立した個人又は法人として実在しているのであって、被告を含む右各税務署長は、住所、本店所在地及び店舗を異にする山村らに対し、それぞれ異なる課税期間の所得金額を個別に認定して異なる内容の課税処分をなしたものであるから、山村らのうち一人に対する処分と他の者に対する処分との間には、単に形式面のみならず、内容的にも全く関連性がないものである。原告は、本件と東京地裁事件との間には裁決における争点につき共通するものがある旨主張するけれども、裁決における争点と本訴におけるそれとが同一であるとはいえないのであるから、原告の右主張は前提を欠き根拠がない。

のみならず、併合審理がなされた場合についてみると、各原告の請求の当否についての主張・立証は、当然のことながら各処分の事案ごとに異なるのであって、一方の原告に係る主張・立証がされている間、他の原告に係る審理は停滞し、審理の長期化、複雑化を招くことは必然であって極めて不都合な結果が生じることとなるのである。

五 ちなみに、原告が本件と併合審理を求める東京地裁事件については、山村鉄夫及びその関連五法人が浅草税務署長ら三税務署長を被告として共同訴訟として出訴したものであるが、右被告らは東京地裁に対し、右訴訟に係る各原告らの請求が行訴法一七条一項、一三条所定の関連請求に当たらないこと等前記のような諸事由から右訴訟の弁論を各原告ごとに分離するよう申し立てているのである。

六 以上のとおり、本件訴訟は併合審理ないし移送すべきものではないから、原告の移送申立ては、速やかに却下されるべきである。

(別紙(四))

目録

東京都台東区清川一丁目二四番一四号

原告 山村鉄夫

東京都台東区上野七丁目一〇番八号

原告 西日本起業有限会社

右代表者代表取締役 斎藤憲康

東京都荒川区荒川六丁目三四番三号

原告 大栄観光株式会社

右代表者代表取締役 山村一恵

東京都台東区千束四丁目四三番九号

原告 楠本観光有限会社

右代表者代表取締役 右高一彦

東京都台東区千束四丁目四三番九号

原告 光陽商事有限会社

右代表者代表取締役 銀杏田和晴

愛媛県松山市道後多幸町三番一号

原告 瀬戸観光有限会社

右代表者代表取締役 木村義一

東京都台東区蔵前二丁目八番一二号

被告 浅草税務署長

宮内郭年

東京都台東区東上野五丁目五番一五号

被告 下谷税務署長

本田三二

東京都荒川区西日暮里六丁目七番二号

被告 荒川税務署長

富島治郎

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